香取慎吾さんのSmaSTATION-5というTV番組の、歌舞伎役者 松本幸四郎さんがトークゲストとして出演していた回を見ました。歌舞伎が見たくなったりしたのはまた書くとして、幸四郎さんのお話にひき込まれてしまいました。
一種の即興芝居になっているように思えたんです。
幸四郎さんの半生を紹介する的な内容だったので、あの時この人がこういったとか、実はこんなことがあった、と幸四郎さんがお話しします。幸四郎さんは椅子に座ったままで身振り手振りを交えてお話ししているのですが、なんだかそれぞれのシーンが見えてくるような気がするんです。
「ある芝居をしていたとき、客席最前列のお客さんがハンドバッグからハンカチを取り出して目頭をきゅっと押さえてくださった。そうしたら・・・」という幸四郎さんの説明を聞いていると、上品にドレスを着た初老のご婦人が舞台から目を離すまいとしながら、慣れた手つきで真っ白なハンカチを取り出しているのが見えるような気になってきちゃうんです。
「イギリスの公演では、タクシーの運転手さんがこう言ったんだ・・・」と言えば、声色を変えているわけでもないのに運転手さんが運転しながら話しかけてきているように思いました。
あぁここまでできるものなのだ、と思いました。
ステージの上で行われる芝居は、本当にその役になりきって動きます。きっとクロースアップマジックのシチュエーションでそういう動きをしたらおかしいと思うんです。急にどうしたの?何かヤバい薬でもやってるの?と。
でもトーク番組での幸四郎さんの動きは、テーブルをはさんで向かいの席でやっていても違和感は感じないと思うんです。「その役になりきる」のではなくて「役者 幸四郎として、そのときに見聞きした事を説明している」という表現になっているからかな、と思います。
クロースアップマジックでも何かのお話をしながら演じる場合があります。Cutting the acesの片腕の賭博師とかもそうですし、前田知洋さんの呪われたカエル王子とかいくつか思い浮かびます。
きっと幸四郎さんほどの演技力がある人がそれらの演目を演じたら、きっと本当に片腕の賭博師が話しかけてきたり、カエルになってしまった王子が目に浮かぶようなエンターティンメントになるんじゃないか、と思います。
プロマジシャンではどうかわかりませんが、私たち木っ端手品師がカードを手にしてマジックの技法を使いながらこれらの演目を演技するよりも、カードも何も使わずに幸四郎さんがただ話をするほうが、確実に面白いんじゃないでしょうか。
幸四郎さんのような雲の上の人の芸に達することは、まぁ無理だとしても、そちらの方向に少しでも近づければなぁとは思います。
まず説明しようとするイメージをはっきりさせること。どんな動作を身振り手振りとして取り出せばそのイメージが伝わりやすいのか。そういうことを少しは意識してみようと思いました。